今も昔もみんなに愛されているローマの庶民料理「フリット」。
フリットとはイタリア語で“揚げ物”のこと。
実はイタリアには、想像以上に揚げ物料理が多いんです。ピッツェリアでも、ハレの日にも、パーティーやピクニックでも、なにかとフリットが登場します。
私がローマに住み始めたときの驚きのひとつが、「イタリア人って、本当に揚げ物をよく食べるなあ」ということでした。
そして、けっこうボリュームのある揚げ物を“前菜”として食べる習慣にもびっくりしました。
素材に小麦粉と卵だけの‘衣‘をつけて揚げたもの、パン粉をまぶして揚げたもの、いろいろありますが、どれもシンプルで家庭でもピッツェリアなどの外食でもよく食べる料理です。
【ローマのピッツェリアのフリットたち】

(写真:オリーヴェ・アスコラーナ)
ローマのピッツェリアに入ってメニューを開くと、まず目に飛び込んでくるのが、ずらりと並ぶ前菜のフリットたち。
日本の感覚では「ピザのお供に揚げ物?」と思うかもしれませんが、ローマでは“とりあえず揚げ物で一杯”が正解なんです。
以下は、ピッツェリアで定番中の定番のフリットメニューです。
1)フィオーリ・ディ・ズッカ(Fiori di zucca)
ズッキーニの花にモッツァレラとアンチョビを詰めて揚げた、ローマ春夏の風物詩。
外はサクッと、中はトロッとしたチーズと香ばしいアンチョビがクセになる一品。旬の時期(5~8月)にはぜひ。
2)オリーヴェ・アスコラーナ(Olive all’ascolana)
マルケ州の郷土料理。ローマでも大人気。
この地方名物の大きなグリーンオリーブの種を抜いて、中に肉と野菜のペーストを詰めて揚げた一品。ひとくちサイズで、いくらでも食べられます。日本でも絶対にウケる味。
3)クロケッテ・ディ・パターテ(Crocchette di patate)
じゃがいもをマッシュして丸めたコロッケ。中にチーズやハムが入ることもあります。
子どもにも人気。日本のコロッケにちょっと似ています。
4)バッカラ・フリット(Baccala fritto)
塩漬けの干し鱈(たら)を水で戻し、衣をつけて黄金色に揚げたもの。
シンプルですが、一口食べれば「えっ、これが干し魚!?」と驚くはず。
外はカリッと香ばしく、中はふっくらジューシー。塩味が効いていて、ビールや白ワインと抜群の相性です。
5)ミスティ・フリッティ(Misti fritti)
その名の通り「揚げ物盛り合わせ」。
カルチョーフィ(アーティチョーク)、なす、ズッキーニなど季節の野菜をなんでも揚げます。パーティー感満載。迷ったらこれ!
【なぜピッツァの前に揚げ物?】
ローマのピッツェリアでは、ピッツァは“メインディッシュ”扱い。
その前にビールやワインを飲みながら揚げ物をつまみつつ語らうのがスタンダードなんです。
スップリ(ライスコロッケ)をかじりながら「今日のピッツァ、マルゲリータにする?ディアボラ?いや、カプリチョーザ?」なんて相談するのがローマっ子の夜。
そしてこの後、1人1枚ピッツァを注文するわけです。
イタリア人にとっては、揚げ物もサラダ感覚でペロリなんですね。
【揚げ物の王様・スップリ】
その中でも、とびきり人気なのがローマ生まれの「スップリ(Suppli)」。
トマトソースのリゾットに卵を加えてつなぎ、中央にモッツァレラチーズを入れて丸め、パン粉をまぶして油で揚げたもの。
熱々を割ると中からチーズがとろ~りと伸びて、まるで糸電話みたい。だからローマでは「スップリ・アル・テレフォノ(電話のスップリ)」なんて呼ばれているんです。
スップリは今や郷土料理の枠を超えて、どんどん進化中。

(写真左:チーズと胡椒風味、写真右:グリーンピースのリゾット)
定番のトマト味だけでなく、カーチョ・エ・ペペ(チーズと胡椒風味)や、今流行りのグリーンピースのリゾット入りなど、バリエーションは無限大。
日本のおにぎり専門店のように、ローマにはたくさんのスップリ専門店があり、みんなランチやおやつにお気に入りの店で立ち食いしています。
【進化系は“パスタのコロッケ”!】
そして最近、ローマっ子に人気なのが、なんとパスタのコロッケ。
形は一見スップリに似ていますが、中身は米ではなくスパゲッティやペンネなどのパスタ。
味付けはトマトソースやアマトリチャーナ風(*1)、カーチョ・エ・ペペ風などさまざま。
それを四角や丸く成形し、パン粉をつけて揚げています。ラザニアをフリットにしたものもあります。
ピッツェリアでも定番になりつつあり、ピッツァとパスタを両方楽しめるのが嬉しいところ。
しかも、これまでデリバリーに不向きだったパスタが、形を変えることで持ち運びOKに。
実はこのパスタのコロッケ、コロナ禍の時期に広まりました。
イタリア人って、いつだっておいしいものを生み出すのがほんとうに上手!
*1 アマトリチャーナ:トマトソースとグアンチャーレ(「豚のほほ肉」や「首周りの肉」を塩漬けにして乾燥熟成させたもの)、ぺコリーノチーズを絡めたパスタ料理。
【私の推し:トルテッリーニのスップリ!】
私のイチオシは、ローマのストリートフード名店「トラピッツィーノ」とコンテンポラリーレストラン「レトロボッテーガ」が発明した、トルテッリーニ(*2)のスップリです。
6個のトルテッリーニを1列に並べて、パルミッジャーノチーズのクリームを絡め、パン粉をまぶしてフライにした一品。
細長い形で、かじるようにして食べる新感覚のパスタスナックです。
レストランで作っているトルテッリーニが片手で食べられるなんて、まさに画期的なストリートフード。
熱々をかじると、外はカリッと、中は味わい深いトルテッリーニで、とってもおいしいんです!
*2 トルテッリーニ:詰め物をしたリング状のパスタで、通常は肉やチーズをペーストにしたものが詰められています。
【揚げ物は“ちょっとしたご褒美”】
揚げ物って、素材が何であれ“お祭り感”があって、今も昔もみんながワクワクしながら食べるもの。
日常のちょっとした贅沢、自分へのご褒美――そんな感覚で食べる庶民料理です。
ぜひみなさんも、ローマに来たらフリットを味わってみてくださいね!
■ヒサタニミカさんのご紹介
ヒサタニ ミカ
京都生まれ京都育ち。1996年よりローマ在住。
サントリーグループのワイン輸入商社のイタリア駐在員事務所マネージャーを経て、ワインや食材輸入業者のコンサルタント、イタリア飲食店日本開業プロジェクトのコーディネートを行う。25年以上にわたり、イタリア全国に広がる生産者やフード&ワインイヴェントを巡り、イタリア飲食界に纏わるメディアへの企画、取材、寄稿も行っている。また日本の大学への国際研修プログラムにて「イタリア食文化」の講師を務める。
AISイタリアソムリエ協会(正規コース)ソムリエ資格を取得し、現在ではイタリアで数々のワインコンクールの審査員を担う。イタリア外国人ジャーナリスト協会会員。
<ダイニングプラスについて>
2001年創業、商社が直営する輸入食品通販サイト。日本を代表する高級ホテル、ミシュラン星付きレストランが採用する高品質な業務用食品を、どなたでも1パックから購入できます。テレビ各社や「ダンチュウ」、「エル・ジャポン」など、メディア紹介多数。
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