限られた食材からおいしい一品をイタリアの隠れた食文化『クチーナ・ポーヴェラ 』|ヒサタニミカさんのイタリアレポート|海外食品通販サイト ダイニングプラス(公式)

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限られた食材からおいしい一品をイタリアの隠れた食文化『クチーナ・ポーヴェラ 』|ヒサタニミカさんのイタリアレポート

2025/01/10 09:00

あまり知られていませんが、イタリアには「クチーナ・ポーヴェラ」という魅力的なカテゴリーの料理が存在します。
直訳すると、<クチーナ=料理>、<ポーヴェラ=貧しい>となり「貧しい料理」ととらえてしまいますが、実際にはもっと深い意味合いがあります。
イタリアは今でこそ食の宝庫ですが、戦争後などは全国的に食料がなく、どん底に貧しい状況が続きました。生き延びる術がなく移民として他国に渡るイタリア人がたくさんいたのがこの時期です。
食材を買う余裕はないけれど、限られた材料で家族においしいものを食べさせようとしたマンマたちのアイデアの結集が「クチーナ・ポーヴェラ」です。
庭に生えている雑草や森の木の実を利用した料理、固くなった古いパンやパスタを蘇らせた一品、内臓料理などがその代表例。現在でも各地に郷土料理として残っています。
わたしはそれらを口にするたびに、イタリア人のクリエイティブさと、何とかして家族においしいものを食べさせたいという作り手の愛情を想像し、二重にも三重にもおいしく感じられるのです。

1 各地の代表的な「クチーナ・ポーヴェラ」

1-1 【カポナータ】
1-2 【パッパ・アルポモドーロ】
1-3 【オ・スカンマリエッロ】

2 野菜の根っこでコーヒーも



【各地の代表的な「クチーナ・ポーヴェラ」】

「クチーナ・ポーヴェラ」はイタリア全国に存在しますが、その中でもいくつか典型的な料理をご紹介しましょう。

カポナータ
ナスやセロリ、オリーブの実の塩漬けをトマトソース、砂糖、ヴィネガーで甘酸っぱく炒め煮にした代表的なシチリアの野菜料理の一つ。現在では家庭でも、レストランのメニューにも欠かせないこの一品にはクチーナ・ポーヴェラとしての歴史があります。戦後、肉がなかなか手に入らなかった時代に、ナスを肉に見立てて作られたレシピと言われています。ナスを油で揚げ、その後さらに炒めることにより食感をとろとろにし、肉の脂に似せていたそう。シチリアの名産であるナスを肉に代わって調理され、食べる人を満足させていたこのお惣菜。このストーリーを知ってからますます好きになりました。

パッパ・アルポモドーロ
トスカーナの最もポピュラーで庶民的な郷土料理です。
固くなったパンを細かく切って、トマトソースでぐつぐつと煮込んだもの。これ、私はかなり抵抗があった料理なのですが食べてみて驚きました。パンの食感ではなく、とろりとしたクリームのよう!本当においしいのです。これはやわらかいパンではおいしく仕上がりません。固いパンだからこそ、煮込んでクリーム状になるのです。素朴でやさしい味わいで、あまり食欲がない時、体調が悪い時などに食べられます。まさにイタリア版のおかゆです。

オ・スカンマリエッロ
こちらはナポリの知恵。前日に余ったトマトソースのスパゲッティをオーブンやフライパンで焼きあげたもの。
なんだか焼きそばのような外観ですが、味わいも笑ってしまうほどそっくり!これが白ワインとよく合うのです。
さらに同じようなレシピで、余ったパスタをフライパンに敷き詰め、卵で固めるスパゲッティのオムレツもあります。ケーキのように切り分けて、パンにはさんで食べたりワインのおつまみにも最適。できたてのスパゲッティ・トマトソースとは異なる、また新たなおいしさを楽しむことができます。


このほかにも、アンチョビで炒めたパン粉をチーズの代わりにスパゲッティにかけただけのシンプルなパスタ料理や、肉の代わりにパンとチーズと卵で作ったミートボールのトマト煮込み、牛肉の捨てられる部位であるトリッパ(胃)を煮込んだ料理など、「クチーナ・ポーヴェラ」にはまだまだ多くの料理があります。



【野菜の根っこでコーヒーも】

このカテゴリには、料理だけでなくイタリア人の日常的な飲み物も含まれます。
コーヒー豆が手に入りにくかった時代、なんとコーヒー豆をチコリという野菜の根で代用したコーヒーが普及していました。これは第一次世界大戦後のことです。
その後、本来のコーヒー豆を使ったコーヒーが再び消費されるようになりましたが、最近では消化作用があり、ミネラルとビタミンが豊富なチコリコーヒーが健康食品として見直され、スーパーマーケットで販売されるようになっています。野生のアスパラガスやタンポポまでが、根っこを煎じてコーヒーとして飲まれていたと言います。

こんなメニューが食べられていたことを想像するのは難しいほど、豊かで多様なバリエーションを持つ現代のイタリア料理。
それらはまさに「クチーナ・ポーヴェラ」から発展したものと言っても過言ではありません。
シンプルな素材を使い、創意工夫で美味しい料理を作るという精神は、今でもイタリア料理の核となっており、時代が変わってもその魅力は不変です。ぜひ次回のイタリア旅行で、この素晴らしい伝統の味を堪能してみてください。



■ヒサタニミカさんのご紹介

ヒサタニ ミカ
京都生まれ京都育ち。1996年よりローマ在住。 サントリーグループのワイン輸入商社のイタリア駐在員事務所マネージャーを経て、ワインや食材輸入業者のコンサルタント、イタリア飲食店日本開業プロジェクトのコーディネートを行う。25年以上にわたり、イタリア全国に広がる生産者やフード&ワインイヴェントを巡り、イタリア飲食界に纏わるメディアへの企画、取材、寄稿も行っている。また日本の大学への国際研修プログラムにて「イタリア食文化」の講師を務める。 AISイタリアソムリエ協会(正規コース)ソムリエ資格を取得し、現在ではイタリアで数々のワインコンクールの審査員を担う。イタリア外国人ジャーナリスト協会会員。





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