街も食も芸術 フィレンツェで味わう究極のビステッカ|ヒサタニミカさんのイタリアレポート
2025/10/24 09:00
ローマから高速電車で1時間ちょっと。秋のフィレンツェへやってきました。
このところオーバーツーリズムに苦悩するフィレンツェですが、ドゥオーモ(大聖堂)やレンガ色の家々に、黄金色に輝くプラタナスやイチョウの木々。
やはりこの中世の街の初秋の美しさは、どの時代でも訪れる人々をうっとりと魅了するものがあります。
ルネッサンスの画家や彫刻家たちのささやきが聞こえてくるような歴史的建築物はもちろん、アルノ川沿いに並ぶ建物や橋、石畳など街の色のハーモニーがこれほどに美しい場所はイタリアにもフィレンツェのほかではヴェネツィアくらいではないかと思うほど。
普段ローマに住む私は、フィレンツェに来るといつもこの街の審美眼に驚かされます。
たとえば、フィレンツェは住宅建築規制が厳しいことでも知られていますが、屋根や壁、窓枠の色、すべて細かい規制で統一されているのです。
実際、高台から街全体を眺めると、なんとパラボラアンテナまでが屋根と同じレンガ色に塗られているではありませんか!これには驚きました。白いパラボラアンテナがどこにもないという徹底ぶり。
派手な看板や電線がないというレベルではなく、街全体の色のグラデーションが1点の濁りもなく完璧な美で演出されている街。それがフィレンツェなのです。この街は景色を眺めながら街をぶらぶら散策するだけでも、心身ともに癒され、ふつふつと細胞から元気が湧いてくるような、テラピー的な存在。
【トスカーナ郷土料理「フィレンツェ風ビステッカ」】
そんなフィレンツェのもう一つの楽しみは、やはりトスカーナ郷土料理。その代表たるものがフィレンツェ風ビステッカ※(Bistecca alla Fiorentina)です。
単なる料理を超え、トスカーナの象徴であり、フィレンツェの美食の儀式ともいえる料理です。フィレンツェの公設市場に行くと、精肉屋さんには、たくさんのTボーンステーキ用の肉が販売されています。
ローマのお肉屋さんではほとんど見かけないので、この豪快な塊肉の光景にいつも見とれてしまいます。
※ビステッカ:イタリア語で「ビーフステーキ」を意味し、特にイタリア トスカーナ地方のTボーンステーキのこと指します。
【トスカーナ原産「キアニーナ牛」】
さて、このキアニーナ(Chianina)というトスカーナ原産の牛は、イタリアの高級牛の一つ。
伝統的な品種で、トスカーナ州南部からウンブリア州にかけて広がる「キアーナ渓谷(Val di Chiana)」を原産地とし、古代ローマ時代から飼育されてきた歴史があります。
純白に近い美しい毛並みと堂々とした体格から「神聖な牛」として儀式にも用いられていました。
雄で1800kgに達することもある世界最大級のスケールを誇る美しい牛で、放牧されているところを見たことがあるのですが、真っ白の巨大な牛たちがゆったりと草を食べている姿は、なんとも優雅なものでした。
キアニーナ牛は放牧を中心とした自然な飼育環境で穀物や牧草を与えられ育てられており、「IGP(地理的表示保護)」の認証を持ち、厳格に管理されています。
最もリスペクトされている伝統食材ともいえるかもしれません。
肉質は赤身が多く、驚くほど風味豊か。脂肪が少なく非常にきめが細かく、脂のしつこさがない上品な味わいを持ちます。
カルパッチョ(左上写真)のように生で食べてもとろけるようなおいしさがあります。
ビステッカにする場合は厚みが通常3~5センチほど、フィレ肉とサーロインを分ける“T字骨”をそのまま残しています。
トラットリアでは肉を注文すると、ウエイターのおじさんが必ず塊を焼く前に見せてくれます。
焼き加減も聞いてくれますが、やはりお任せし内側はほぼ生のままの焼き上がりがおすすめ。
この肉は高火力の炭火で焼き、外は香ばしく中はレアに仕上げることで、キアニーナ牛本来の旨味と香りが存分に引き出されるのです。
塩は適切なタイミングで振るだけ。外側は香ばしい皮ができるまで素早く焼き上げ、内側はジューシーでほぼ生のままの中心部は濃いピンク色。
肉好きにはたまらない光景です。マリネや複雑な調味料は一切不要。良質な肉と火だけが重要です。
どーんと運ばれてくるまな板に乗ったステーキ。すでに切り分けられています。
「こんな量、絶対に食べられない!」と思うのですが、食べてみると脂肪が少なく、ほとんどが赤身のため、重くなく意外とさっぱりと食べられます。オリーブオイルとレモンをかける人もいます。
私は塩だけで、なんといってもここにトスカーナの赤ワインを合わせるのが一番好きです。地元のキャンティ・クラシコまたはブルネッロ・ディ・モンタルチーノを選びます。
肉を一切れ口に入れ、同時にワインを飲む。肉の旨味とサンジョベーゼ品種の辛口赤ワインが混ざり合って、最高の瞬間です。
ああ、これがトスカーナだなあと感じます。
【家族や友人たちと共に楽しむ体験も魅力】
ビステッカ・フィオレンティーナの魅力は味だけではありません。
これは家族や友人たちと共に楽しむ体験であり、一種の儀式のようなものです。大きなまな板に乗せ、テーブルの中央で切り分け、食べるところは、ちょっと日本の鍋料理に似ているかもしれません。トスカーナの友人の家に行くと、必ず庭でこのビステッカを焼いてくれます。そしてごそごそとセラーから赤ワインを持ち出し、彼女の家族がみんな集まって、肉を切り分けます。香ばしい肉をほおばりながら、ワイングラスに映る火の色が、静かにゆらめくのを見ていると本当にこれぞトスカーナの贅沢と実感するのです。
今イタリアではちょっとした和牛ブームですが、この脂身の少ない赤身肉の繊細な牛肉のおいしさは格別なものがあります。そして何よりも、この街の芸術や建築と同じように、フィレンツェの食にもまた「美」が息づいていると感じます。目に映る街の景色が完璧な調和を奏でているように、ビステッカ・アッラ・フィオレンティーナにも無駄なものは一切なく、素材と火のバランスだけで完成する究極のシンプル。そこにあるのは、トスカーナの大地と人の知恵、そして時を超えて受け継がれてきた誇りです。秋の光に包まれたフィレンツェでこの一皿を味わうとき、「美とは、シンプルであること」とこの街が静かに教えてくれているような気がするのです。
■ビステッカ・アッラ・フィオレンティーナのおすすめの店
Buca Lapi
Ristorante Buca Lapi | I Migliori ristoranti Firenze Bistecca fiorentina | Sito Ufficiale
Trattoria Sostanza
Trattoria Sostanza, Firenze - Menu del ristorante, prezzi e recensioni
■ヒサタニミカさんのご紹介
ヒサタニ ミカ
京都生まれ京都育ち。1996年よりローマ在住。
サントリーグループのワイン輸入商社のイタリア駐在員事務所マネージャーを経て、ワインや食材輸入業者のコンサルタント、イタリア飲食店日本開業プロジェクトのコーディネートを行う。25年以上にわたり、イタリア全国に広がる生産者やフード&ワインイヴェントを巡り、イタリア飲食界に纏わるメディアへの企画、取材、寄稿も行っている。また日本の大学への国際研修プログラムにて「イタリア食文化」の講師を務める。
AISイタリアソムリエ協会(正規コース)ソムリエ資格を取得し、現在ではイタリアで数々のワインコンクールの審査員を担う。イタリア外国人ジャーナリスト協会会員。
ダイニングプラスの食品
ここからは、ダイニングプラスで取り扱っているTボーンステーキをご紹介します。
仔牛 Tボーンステーキ(2個入)オーストラリア産
柔らかで繊細な味わいが特徴の仔牛肉を、贅沢にもフィレとロースの両方を同時に味わえるステーキです。
<ダイニングプラスについて>
2001年創業、商社が直営する輸入食品通販サイト。日本を代表する高級ホテル、ミシュラン星付きレストランが採用する高品質な業務用食品を、どなたでも1パックから購入できます。テレビ各社や「ダンチュウ」、「エル・ジャポン」など、メディア紹介多数。
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