東京の山手線の内側とほぼ同じ面積しかないパリ。そこに月曜日を除く毎日30から多い日で40近くの朝市が開かれます。広場のように人が集まれる場所があれば、そこには朝市が立つという感じで、パリジャンの暮らしを支える大切な存在です。
写真は地上を走るメトロ高架橋下のグルネル朝市。モットピケ・グルネル駅とデュプレックス駅間の500メートルにわたる大きなマルシェです。
食料品の買い出しといっても男女比は半々くらいで、それこそ暮らしむきも人種も様々な老若男女が分け隔てなく集まり真剣に品定めする様子には迫力があるものです。
しばらく家を留守にして帰宅すると、早速向かうのは朝市です。キッチンの野菜カゴや冷蔵庫に何もない状態でまず買うのは基本の野菜。サラダのヴィネグレットソースに使うエシャロット、ニンニク、煮込みに欠かせないローリエとタイム、そしてジャガイモ、人参、玉葱、ポロ葱、料理の味を決めるのに便利なシャンピニョンなどです。市場を歩き回るとあれもこれも買って帰りたくなるものですが、そこは抑えてまずは基本のものから。
上の写真を撮った頃のポロ葱はまだ細身ですが、寒くなるにつれてどんどん太くなり甘みも増します。今頃のポロ葱は下の写真のような感じで、ポワローヴィネグレットに使うならこちらです。
右列に見えるのは日々の料理に出番が多いエシャロット3種。
一番上の小粒で表皮が灰色のものは最も風味が強いタイプ。生牡蠣に添えるヴィネガーに刻んで入れるのはこちらです。その下が肉料理向きのエシャロット、そしてその下の細長いものは辛味がやさしいタイプになります。
左列にはロートレック産のニンニク。箱に入っているのは黒ニンニクです。
フランスでは玉ねぎの品種も豊富です。
これに対して一般的な玉葱はオニオン・ジョーヌ(黄色い皮の玉ネギ)と呼ばれるもの(左上の写真)で、バターで炒めた時の甘い匂いには素晴らしいものがあります。
皮付きのまま輪切りにして、オリーブオイルをかけ、塩をふってオーブンで焼いた赤玉葱。(右上の写真)
ヴィネグレットソース用に刻んで、いつでも使えるように冷蔵保存しているニンニク、エシャロットです。
この店ではジャガイモの種類も豊富それぞれの値札にはどのような調理法に合うかも書かれています。
ポタージュやピュレ、フリットに向くポクポクタイプ、実がしまった煮込み向きタイプ、フライパンソテーに向くタイプ、茹でてサラダに使うのに向いているもの、オーブン焼きに適したもの、皮付きのまま蒸し焼きに向くものなどなど。新ジャガは別として地中で熟してから収穫されているので、包丁の入り具合が日本の市場に出ているものとは違うようです。ガリガリしない。力を入れずにスルッと刃が滑るように切れるのには思わずニヤッとしてしまうほどです。アマンディーヌ、シャルロット、ポンパドール、モナリザ、ジュリエット、ベル・ド・フォントネなど、ジャガイモの名前の多くが女性の名前、あるいは女性を思わせる呼び名です。 右上はジャガイモとポロネギのスープ煮。
人参、ジャガイモ、セロリ、玉葱などのスープ エメンタールチーズを5ミリ角くらいに切りって器に入れ、そこにスープを注ぎます。チーズが四角いままプチュッと柔らかくなったところをスプーンですくっていただくと美味しいものです。
マッシュルームのことをフランスではシャンピニョン・ド・パリと言います。
赤みを帯びた茶と白があり、風味の点では変わりありませんが、サラダに加えて生で食べるのは白い方です。
新鮮なうちはカサがしっかり閉じていますが、次第に開いて黒ずみはじめます。
ただこのような状態になったものは風味が上がっているものなので、 スープにすると鮮度が良いものよりかえって味が濃く出て美味しいものです。
ラスパイユのBIO市に出る卵のスタンド。
白玉、赤玉、茶玉と3種類ありますが、殻の色は卵を産んだ鳥の羽の色と同じで、栄養価や美味しさと殻の色とは関係がありません。フランスの卵の黄身は薄い黄色をしていますが、それは麦を主とした餌を与えられるから。日本では黄身の色が濃いほど栄養がある良い卵と信じられているため、パプリカやマリーゴールドを混ぜた餌を食べさせてオレンジ色にしていることも多いようです。
上の写真の緑の卵ケースには“鶏を殺さない卵”と書いてあります。どういうことでしょう。
これは、卵を産まなくなった雌鳥を殺処分せずに協力農家などに引き取ってもらい、自然死するまで生かすというプロジェクトの元に産ませた卵だからなのです。当然他の卵より価格は上がりますが、この考えに賛同した人たちが購入することで成り立っています。
健康的で鮮度がよい卵の状態をお見せするために、写真の皿蒸し卵は過熱前の状態です。
平皿にフレッシュクリームを流し、薄切りハムと卵を盛りつけてパセリを散らし、湯を張ったフライパンにスノコを置いてその上に皿を置き、蓋をかけて黄身が半熟になるまで火にかけます。
グルノーブル風皿焼き卵。
バターを塗った焼き皿に卵を割り入れ、オーブンで湯煎焼きにします。あるいは、湯を張ったフライパンに網を敷き、その上に焼き皿をのせて蓋をかけて蒸し焼きに。半熟に仕上げたら塩をふり、あらかじめ用意しておいたクルトンとケッパー、パセリを散らし、好みでオリーブオイルをまわして。家庭ではこのような卵料理を前菜としてメイン料理の前にいただきます。
エシャロットとニンニク、タマネギは常にキッチンに置いているもっとも基本の素材です。
湿気が少ないフランスなので、こうしてカゴなどに入れて外に出しておいても問題ありません。
春から初夏にかけて、エシャロットは右上の写真のような葉付きの束を買い、フックに下げて自然乾燥させます。
ジャガイモは紙袋に入れてカゴの中に。そろそろ使った方がよい状態のものは忘れないように外に出しておきます。
ローリエとタムは1束の量が多くてフレッシュのうちに使い切れるものではなく、乾燥したら瓶などで保存します。
これはフランスのジャガイモの中で最もサイズが大きいビンチと、最も小さいデリカテス。瓶の中はローリエとタイムです。
こうして基本素材が揃っていれば毎日の料理がとてもスムース。料理にはリズム感が大切だと常々思いますが、 このキッチンコーナーは調理の基本になるリズムの源なのかもしれません。