パリの中心で暮らしていながら都会の住人のような気があまりしないのです。
その理由はいくつかあるのですが、家から半径600メートルに二ヶ所、週に計4日開かれる朝市の存在が大きいでしょう。
食料品店が軒をなす商店街も大型スーパーマーケットも同じ圏内にありますが、青空市に溢れる季節の彩りと香りは、 日常の必要不可欠な買い物が気持ちのリフレッシュのもとにもなり、用がなくても足を向けたくなる魅力があります。
一般的に旬と言われる時期より一歩前に味わうことに粋を感じるのが日本人ですが、パリの朝市にやって来るのは今こそが旬のものばかり。まだかな、まだかな、と思っていると、一気に出はじめて山になって売られ、それが 「次あたりでもう終わりかな」と告げられれば、ほんとうに次の次のマルシェの日には姿が消えてしまうものなのです。
10月に入って今はまさにキノコ狩りのシーズンです。
(写真:セップやジロールなどのキノコがたくさん)
今ごろ田舎の森の近くの薬局には「毒キノコにご注意」と、食べられるキノコと食べられない怖いキノコをイラストで描いたポスターが貼り出されていることでしょう。
そしてパリの朝市には、湿った森の土や枯葉をつけた秋のキノコが旬の真っ盛りを迎えています。たださすがにすべてが森から届いたものというわけではありません。パリ近郊農家が、昔の採石場あとなどの地下で栽培しているものも多く、私が買いに寄るのはBIOの野菜のみを扱うスタンドです。
(写真左:こちらは巨大なプルロット、写真右:スパラジ(スパラジスとも))
海綿か白木耳のような姿のこちらはスパラジ。見た目はこんなですが風味は素晴らしく “貧乏人の白トリュフ” とでも言いましょうか。
バターでエシャロットとともに炒めフレッシュクリームを加えるだけで、家庭でも美食家のパスタが出来上がります。
もう一品は、日本では杏茸と呼ばれるオレンジ色のジロール。
これはニンニクバターで炒めて刻みパセリ仕上げ。田舎パンに焼き汁をつけて食べるのがまたよし。
10月のマルシェで目を引くのは季節のフルーツです。
パリ近郊のBIO農家のスタンドには秋の味覚が一堂に。手前はコンフェランスという品種の梨、その向こうには まだ小粒のリンゴ、そしてキノコも見えます。花をつけたハーブが売られるのも10月の今頃です。
8月末には出始めるレーヌクロードという青梅のようなプラムはそろそろ食べ収め。ほぼ同時期に出てあっという間に姿を消してしまう黄色い小さなプラム、ミラベルはすでになし。フレーバーキングという名の濃い赤の品種でプラムの季節は終了します。
そしてプラムにかぶって登場した葡萄とイチジク、ノワゼットやクルミ、そして栗が並びあって、朝市は今まさに実りの秋の大舞台です。
ところでフランスでは種あり葡萄が主流です。小さな葡萄なら一粒一粒指でつまみなどせずに、男なら房にかぶりついてムシャムシャ種ごと食べてしまうことも。
これはフランスでは珍しく種なし葡萄のサントニアルです。薄皮で種がないならと、試しに作ってみたのがこちらです。
オリーブオイルで軽く炒めたあと水ほんの少々加えて蓋をして1分から2分(大きさや熟し加減により)火にかけただけのものです。リキュールもスパイスも使わずに超シンプルに。いくらでも食べられる美味しさです。
写真はこれをブッラータに添えたところ。日本の種無し葡萄は大粒がほとんどですから、同じようにはできないでしょう。熟し方が足りないとソースがとれないので未熟なものは選ばず、半分にカットして作ってはいかがでしょう。
秋にはさまざまな品種のプラムが出回り、コンフィチュール作りが楽しいシーズンです。
灰色がかった緑のプラムはレーヌクロード。オレンジ色のコンフィチュールは出盛りの頃に作っておいたミラベルのコンフィチュール。
レーヌクロードとフレーバーキングのコンフィチュールで朝食。
保存を前提としていないので砂糖はプラムの重さの25%のみで、皮もつけたまま大きめにカットして。パンにつけるのはもちろんですが、フランスの濃厚なクレームフレッシュに添えて食べるのが最高です!